中世ラテン語(?)の" remicha " をめぐって

西間木 真


 フランス中西部、リムーザン地方の首都リモージュは、磁器および中世から伝わる七宝焼工芸の産地として知られる。1914年8月第一次世界大戦勃発時には、作家島崎藤村が疎開をしていたことからも、日本人には馴染み深い町である (1)。町の北東部、聖マルシャルの墓所に設立された聖マルシャル修道院は、中世において巡礼地となったばかりではなく、サンチアゴ・デ・コンポステラへの巡礼路の宿駅としての役割も果たし、ロマネスク文化の拠点の一つとなった (2)。同修道院の文化遺産として最もよく知られているのは、1730年に王立図書館に購入され、現在フランス国立図書館に所蔵されているロマネスク写本群であろう。Bernard Ithier (1163-1225) をはじめとする歴代の司書 (armarius-cantor)によって集められた南仏写本は、大小さまざまな図像と、典礼劇を含む新作ラテン語典礼聖歌で知られる (3)。

 サン・マルシャル写本の多くは、内容の異なる複数の 小冊子(libellus)を合本したものであり、個々の小冊子は、元来、2?3冊のquaternionを綴じただけの簡便で実用的な形で読まれたと考えられる (4)。現状の合本写本では、通常、巻頭にサン・マルシャル修道院における蔵書番号(請求記号)と1730年移管時のカタログ番号が書き加えられている他に、Jean Lebeuf (1687-1760) による目次が添付されている。そのため各写本を構成する各冊子の大まかな内容は知られているが、独立した学術研究あるいは校訂の対象とされない冊子はおそらく少なくないと思われる。

 本発表では、lat. 3713写本の第4libellus (30-44葉)にこのほど確認された未明の語について意味を確認し、由来を推察した。


1) 河盛好蔵 『藤村のパリ』新潮文庫、1997年。
2) Jean-Michel DESBORDES, Jean PERRIER, Limoges, crypte Saint-Martial, Paris, 1990 (Guides archéologiques de la France, 20).
3) Danielle GABORIT-CHOPIN, La décoration des manuscrits à Saint-Martial de Limoges et en Limousin du IXe au XIIe siècle, Droz, 1969 ; La France romane au temps des premiers capétiens (987-1152), Paris, 2005, passim, etc.
4) Pierre-Marie GY, " The Different Forms of Liturgical Libelli ", in: Fountain of Life. In Memory of Niels K. Rasmussen, O.P., Washington, D.C., 1991, p. 23-34 ; Michel HUGLO, Les livres de chant liturgique, Turnhout, 1988, part. p. 64-75 (Typologie des sources du moyen age occidental, 52).


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